「ちょっと月沢君」
担任に呼ばれた。
「はい?」
「これ,生物研究室に運んでくれない?」
・・・・・
俺,学級委員じゃないんですけど・・・
そんなことを考えながら英知の唇ははっきりとこう発音した。
「わかりました」
「助かるよ。こんなことを頼めるのも君だけだからねぇ・・・ははは」
すこし不機嫌な英知に気づく様子もなく担任もとい生物教師は続ける。
「ありがとね。あ,そうそう。リーダーの先生が君を呼んでたよ。聞きたいことがあ
るらしいくてね。じゃね。」
ニコニコとしながら陽気な教師はスキップで去っていった。
「英語ぐらい自分で学べばいいものを・・・」
英知はぶつぶつとそういいながらフラスコだのホルマリン漬けだのが入っている箱を
持ち上げた。
コトコトコト
「そういえば今日は委員会の集会があったような・・・」
英知はそうつぶやいた。
それはあたりである。
英知は保健委員だ。奇異なことに彼のクラスには保健委員は彼しかいない。
仕事づくしである。
「あ,つきましたね。」
あっというまに生物研究室の前だ。
ドサッ
無造作に箱を生物教師の机に置く。
「ふぅ・・・あの人,意外と人使い荒いんですから・・・」
はぁ・・・
とため息をつきながら英知は次の仕事へ向かう。
ガラッ
ここは職員室だ。
「すいません。呼び出しがあると聞いたのですが・・・」
「あ,こっちこっち。月沢君」
英語教師が遠い方から英知に向かって手招きをした。
仕方なしに英知は歩き出す。
「はい。何でしょうか?」
「いつも,ごめんねー。ここがよくわからなくて・・・」
「ああ・・・そこですか。そこはこうなるので・・・こういう慣用句になります。」
「はぁはぁ・・・。そうか。なるほどね。今度の君の成績にも期待しているよ」
「ありがとうございます。」
英知はぺこりとお辞儀すると職員室をあとにした。
かかった時間3分。
カップラーメンがつくれる。
「えっと・・次は集会でしたね。」
入学してから慣れたものだ。
このただっぴろい学校の敷地の構造もだいたい頭に入った。
ガラッ
・・・・・・・・
は?
誰もいない。
確かあったはずですよね?
いつもの時刻で・・・
コチッコチッ
教室に置かれている古時計が正確に時を刻む。
人が来たときが始まるときだろう・・・
チッ
今日は新しい本を買いに行こうと思っていたのに・・・
とんだ時間狂わせですね。
コチッコチッ
単調な音が響く。
こういう時は眠くなる。
昨日は本を読破したのでほぼ徹夜なんですよね・・・
瞼が重たい。
自然に降りてくる。
ガラッ
?
音がした扉の方を見ると茶髪の女の子・・・?いや,ここの制服を着ているというこ
とは男の子か・・・
が立っていた。
同じ保健委員だろうか?
「あ・・・のっ。隣,座ってもいい?」
少年は声をかけてきた。
転校生だろうか?
ぼーっとしている性格のせいで学校のニュースにも疎い。
「え?ああ,いいですよ」
断る理由もないですしね。
英知はそう思って隣の椅子を引いた。
少年は「ありがと」っていって椅子に座る。
たわいない話で盛り上がる。
「何時から集会が始まるんですか?」
英知がそう聞くと少年は「あと20分ぐらいしたらじゃね?」
と返してきた。
・・・・・
犯人はあいつか・・・
生物教師!
また,言うの忘れましたね。
まったく・・・困る・・・
「えと・・・こんなに早く来て何してんの?」
少年は聞いてきた。
しかし早く来た理由も特に居眠りぐらいしていたということを言わなくてもいいだろ
う。
「いえ,特には。あ,すいません。自己紹介がまだでしたね。」
クラスがどうであれ,自己紹介をしなくては何も始まらないだろう。
「月沢英知です。」
いきなり少年が頭を下げた。
「あっ・・・と,水無月遼ですっ!!」
ちょっとびっくりして英知は笑い出した。
自分のまわりにはなかなかいなかったキャラだ。
ひとしきり笑うと昨日の睡魔が襲ってきた。
英知はやはり人間でもあるし,睡魔には勝てない。
本来なら人の前。しかも初対面の人の前ではしないのだが,
舟をこぎ出してしまうのだ。
しかも今日はうららかな春のお天気。
眠気を誘うのも当たり前というもの・・・
コクリコクリ
ふっと遼のことがよぎる・・・
「あ・・・寝てました?」
ちょっと失礼なことをしてしまったなと英知は苦笑した。
そうすると今度は遼が笑い出した。
「?」
いきなりのことで頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「ごめん」
そう言いながら遼は目尻の涙をすくう
「いえ,気にしてませんけど,なぜそんなに笑っていたんですか?」
遼はにこっとして答えた。
「えと,俺の知っている人に雰囲気が似てて。でも,違ってて,可笑しくて」
遼の顔を見ているとその人が大切な人なんだろうということを容易に想像できる。
「俺の雰囲気に似ているなんて・・・凄い人ですね」
「うん。本当に凄い人だよ。色々と・・・」
遼の幸せそうな顔を見ているとこっちまで幸せになってくる。
英知と遼は笑いあった。
「これからもよろしくお願いしますね。遼」
「うん。仲良くしようね!英知」
これが英知と遼の出会いだった。
後日談
「やぁ,英知」
「これは麗」
学校に奴がいた。
名前は竜胆麗
遼は二人の険悪な様子を見ていった。
「え・・・知り合い?」
「ええ・・・なんで麗がここにいるんです?」
「僕こそ聞きたいね・・・ってその制服を見れば分かるんだけど」
「バカですか?それに麗と遼が知り合いのように見えるのは・・・?」
「出会うべくして出会ったというものだよね。ね?遼」
「え・・・ああ・・・うん。」
「遼。もしかして俺に似てる人って・・・」
「ああ,麗だよ」
「・・・・・・」
「不満かな?」
「当たり前ですよ。」
「あの・・・二人は親友・・・とか・・・?」
遼がおずおずと聞く。
二人はそろってこういった。
「「腐れ縁です・だよ」」
fin