5月も半ば過ぎた頃 初夏を感じさせる日だった。
遼はたまたま出会った棗と帰宅することになった。


「今日は英知はいいの?」

 遼が隣を歩いている棗を見上げて聞くと、夏目は淋しそうな顔で明後日の方向を向いて言う。
「・・・先に帰られたんだよ・・・。ご主人ー。(涙)」
「あらら、ご愁傷様。」


 遼が苦笑気味にそう言って上げていた顔を戻すと小さく溜め息を吐いた。
それを見止めた棗は悲しそうな顔を作ってみせ遼の顔を覗き込んだ。
「なぁんだよ。遼は俺と話すのは嫌なわけ? 俺ってばか〜わいそ。」
それを聞いて遼は慌てたように両手をブンブン振って
「ちっちがうよっ! だって、棗君身長高いから顔あげてなきゃいけないだろ? 疲れるんだもん。首」
 
弁解しつつも少し不機嫌そうに頬を膨らませる。
遼の身長は高校生男子にしては低めの165cmで、それに対して棗は181cmである。
16cmも差があれば首が疲れるのも頷ける。
遼は首が疲れるので上目使いに棗を見やって恨めしそうな表情で文句を言う。
「むー。そんなに無駄に大きくしなくていいじゃん。10cmくらい俺にちょうだい」
「そしたら、俺ご主人や遼よりも背が低くなるからイ・ヤ」

 棗がペロリと舌を出して遼を見下ろすと遼は棗の袖を思いっきり下へ引っ張った。
「うっわ!?」
 がくりと体が下がり前のめりになる。
その上に遼が頭を押さえ込むように体重を掛ける。
「くれないなら縮んじゃえっ!」
「させるかっ!」
 棗が膝を伸ばし遼を落とす。
落とされた遼は不満そうに上を見上げる。
「むー。」
「お前の体重で俺が押さえ込めるかっての」
 


そんなことをしていると棗は後ろから声を掛けられた。
「棗じゃん。こんとこで何してんの?」
 
 振り向いた棗はその人物の顔を確かめると、一歩後ずさった。
「那緒・・・。」
「んだよ、その反応。あれ? 今日は英知と一緒じゃないの?」
 そう言って棗の影にかくれて見えなかった遼と目が合う。
遼をみつけた那緒という人物は面白い物を見つけたような顔をして棗を見た。
「ってお前誰だよ? この女の子。んん? もしかしてこれは・・・・浮気かなぁ?」

 にやりと笑って遼を引っぱり出す。
遼は抵抗する暇もなくそのまま那緒の胸にぶつかる。
「うわっ!」

「って君 男の子!? うーわっ びっくり! 俺 中原那緒☆ 君は?」
「え・・・!?えと、水無月遼です・・・。けど・・・」
 突然起こった出来事に遼は大きく目を見開いたまま那緒を見上げる。
棗は苦々しい顔で
「浮気なんかしてない。こいつは友達。英知は・・・先、帰った」

 さっきのことを訂正する。
遼も共に首を大きく縦に振り、棗の言ったことに対して肯定を表す。
那緒は納得したのか 遼の腕を放した。
「なぁんだ 俺の勘違いか。にしても先に帰られたなんて、愛がないな☆」
 輝かしい笑顔で那緒は棗の痛い所を突く。
「今日は・・・たまたまだよ!」
「ふぅ〜ん? まぁ、そういうことにしといても別にいーけどぉ?」
 やはりにやにや笑って棗の肩を叩いた。
「まぁ頑張れ☆ 俺は今から凪んち行くからvv じゃーな!棗。遼も!」
「えっ!?うんっ ばいばい!」
「早く行け!」
 そのまま那緒は手を振って歩いて行った。



棗は遼を見て恐る恐る聞いた。
「遼・・・さっきの奴・・・・どう思った?」
「え? 那緒君? んー最初はびっくりしたけど楽しい人だね!」
 笑顔で答える遼に棗は肩を落とした。
「やっぱり・・・。」

隣で「友達が増えた〜。」と喜んでいる遼を見つつ、のん気でいいなと思う棗だった・・・・