あれは、遼と英知が出会ってから1週間程たった頃だった。



その日、遼は英知と一緒に帰宅しようと英知のクラスへ向かっていた。
その頃・・・

「なぁ、今日は一緒に帰ろっご主人ーv んで〜今日は俺んちに泊まりってことで♪」
「嫌です。」
「なぁんでだよ? 昨日やってないじゃーん!」
「一昨日はやったでしょう? いいじゃないですか」
教室では英知ともう一人の男が何やら怪しい会話を繰り広げていた。
その男は丸いモノクルをかけた青緑に白いメッシュの入った長髪をした男である。
「え〜俺は毎日でもやりた・・・    ドコッ
「ふざけないでください棗」
 笑顔と共に辞書を投げつけた英知は棗と呼んだ男に背を向けて帰り支度を始めた。
「む〜そんなこと言うなら・・・此処で♪」
棗はいきなり英知の腕を掴むと、自分の方に向かせ口をふさいだ。
「ふっんっ!?」
そのまま机に押しつけて唇をはなす。
「何するんですかっ!!」
英知が棗を睨みつけるが棗は満面の笑みうぃ浮かべて英知を眺めている。
「何するって・・・わかってるだろ? 俺、我慢できないし♪」
「放してくださいっ!」
「いやv」



とそこに遼が入ってきた。

「ねぇ英知、今日一緒に帰・・・ろ・・・・」
入ってくるなり、大きな目を目一杯見開いて中を凝視する。
棗は遼を見るなり犬間ばかりに睨みつけた。
「な・・・え・・・?」
英知は慌てて身を起こそうとして棗に押さえつけられる。
「遼っ!?違うんですよっ? これはっ!!」
「おい」


棗はさらに眼光を鋭くして遼に声をかけた。
「お前は誰だ?」
重低音の声が遼の耳をさす。
「あ・・・の、俺はっ・・・・」

「−−−−英知は俺のだ」

棗はもう一度遼を強く睨みつけると英知の腕を掴んで引き起こし、鞄を掴んで教室から英知を連れて出て行った。




遼はしばらくの間その場で硬直していたが、膝がくだけて座り込んだ。
体は小刻みに震えて目には涙がうかんでいる。
「こ・・・怖かっ・・・!」
あんな瞳は初めてだった。
モノクルを通して見えた瞳は遼を射殺さんばかりで。
「っ・・・!」
遼はただ泣くだけだった。





あれから棗とも英知とも接触はなかった。
遼はその日、一人で人通りの少ない路地を通って帰宅していた。

「遅くなっちゃったな・・・」
ポツリと呟いて静かに家路を急ぐ。
最近ずっと緊張状態であった為か桜の木の下で眠ってしまったのだ。
五月の穏やかな陽気と心地よい風とで絶好の昼寝デーだったので今まで眠りこけていたのがまずかった。


前方から歩いて来たのは棗だった。

「っ!」
「・・・お前・・・」
棗はモノクルをしていなかった。
その生身の視線は容赦なく遼に突き刺さる。
遼は一つ身震いして棗を見上げた。
棗は何も言わずに遼を睥睨している。
遼は唇を噛み締めて涙が溢れ出しそうになるのを懸命にこらえている。

お互いに相手を見ていたが遼が急に顔を下げた。
「ごめっんなさい・・っ!」
「!?」
「何かっ気に入らなかった・・・なら謝るっからっ・・・! そんなっ目で・・・・見ないでぇ・・・・!!」


 それだけ言うと遼はその場に座り込んで方を震わせ始めた。
遼は温厚な背角で人からうらまれるようなことはいままでなかったのだ。
いつも笑顔で明るいが為に周りに人がたえなかった。
それ故に、棗のような視線を真っ向からうけるのは初めてだったのだ。

 棗は遼の前にしゃがみこんだ。
肩に手を置くとビクリと体が強張るのがわかった。
少し思案した棗は遼に声をかけた。


「なぁ」
「・・・っ!」
 遼は体を震わせらが顔を上げた。
目から雫が流れ落ちていく。
棗はそれを見てわずかに狼狽した。

「・・・・・・・・・・・ごめん。」
 その一言に張るかが大きく目を見開く。
「ごめん・・・。只、英知が・・・お前が来た時に、ちょっと・・・優しい顔になったから・・・・。だから、さ・・・」
 棗が視線をそらしてそう言う。
遼少しひょうし抜けしたような顔になった。
「え・・・じゃ、あ・・・・やきもち・・・?」
「だな」
「・・・っ怖かったんだぞっ! ・・・馬鹿ぁっ」
 そして安心したのか再び遼の目から涙が零れだした。
棗はどうしたものかオロオロと慌てふためく。

それからフッと笑って、遼の頬に顔を近づけて流れ落ちる涙に舌を這わせた。
「ひぁっ」
 遼の体が震えてパッと顔を上げた。
頬を紅潮させて上目遣いに棗を見た。
「なっ何するんだよっ!!///」
「んー涙が止まるおまじないv」
 うーとうめいて遼は両の手で頬を押さえて顔を下げた。

-うーわ、可愛い-

棗はそんな遼の事を見て不謹慎なことを考えている。 と、そこへ、
「何やってるんですかっ! 馬鹿猫っっ!!」
 英知が肩を怒らせて憤然とした顔で歩いてきた。
英知は無言で遼の顔を覗き込んだ。
英知の瞳に映ったのは頬を押さえて瞳を震わせている遼の顔であった。
英知はやさしくよびかけて遼を立たせると棗を捨て置いてさっていった。

「あっ!ご主人!!」
「・・・変態猫なんか知りません」






次の日・・・
「遼、もう一人で棗に近づいちゃダメですよ?」
「え? 何で?」
英知の忠告に不思議そうな顔を向ける遼に英知は嘆息した。
「もう大丈夫っ! だってもう嫌いじゃないっていってたしさ。 もう友達だもんっ!!」
笑顔でそう断言する遼にもう一度深く溜め息を吐いた。


--わかってませんね・・・。あの万年発情期猫に近づいたらどうなるか・・・。--