あれは,転入してから一週間程たったある日。
保健委員会の集会の時だった。



えと,こっちであってるよな?


遼は広い校舎の中を一人歩きつつも委員会の集会場所へ向かう道中であった。
まだ不 慣れな校舎内をうろ覚えな見取り図を思い浮かべながら一人もくもくと歩いている。
遼のクラスのもう一人の委員が今日はクラブの方へ行っているため
一人で向かってい るのだがいかんせん迷っているふうをぬぐいきれない。


「っていうか,ここの学校が広すぎるんだよ・・・」
力無くごちて遼は保健委員会集会場所へ向かう。
それから10分程後,ようやく到着 した遼は気だるそうな顔を引き締めて扉に手をかけた。
中には一人の少年がいた。


綺 麗な金髪が光に透けて輝いている。
遼は息を飲んだ。
その,少年の纏っている雰囲気が,遼の知っている大切な人物にあ まりにも酷似している。
「あ・・・・のっ隣座っても・・・いい?」
遼は少年に思わず声をかけた。
「え?ああ,いいですよ」
少年がふわりとほほえんで隣の椅子を引く。
遼はへらりと笑い返してお礼を言って 座った。
委員会の集会が始まるのは後20分もあった。
「えと・・・こんなに早くに来て,何してんの?」
遼は隣の少年に話しかけた。少年はついと視線を遼に向けて返答する。

「いえ,別に特には。あ,すいません。自己紹介がまだでしたね」
少年は綺麗に笑うと
「月沢英知です。」
と言った。遼も頭を下げ
「あっ・・・と,水無月遼ですっ!!」
と自己紹介をした。

英知という少年はクスクス笑って遼を見る。
やはり似ていて少々 気がゆるむ。
遼は少し困ったように微笑んで視線を下げた。
違う人だと分かっていて も意識してしまう。
と,隣でカタリと音がして,振り向くと英知が頬杖をした体勢で うとうととしている。
今日は陽気が良く眠たくなる春の一日だ。
わからなくもないが 遼は吹き出した。

「あ・・・寝てました?」
英知が苦笑して遼を見る。
遼は尚も笑って英知に頷いた。
やはり英知は英知であっ た。


ー俺の知っている奴は,絶対に人の前で居眠りなんかしないもの。ー


フフッと笑って遼は目尻に溜まった涙を指でぬぐってごめんと謝った。

「いえ,気にしてませんけど。何でそんなに笑ったんですか?」
「えと,俺の知ってる人に雰囲気が似てて。でも違ってて,可笑しくて」
「俺の雰囲気に似ているなんて・・・凄い人ですね」
「うん。本当に凄い人だよ。色々と」
2人は顔を見合わせて笑い合った。
「これからよろしくお願いしますね。遼」
「うん。仲良くしようね!英知っ」




あれは,俺が転入して一週間程たった春の日。
出会ったのはあいつに似た笑顔の綺麗な一人の少年だった。